トランコフの反乱―ロシア男子若手至上主義への抗議

ロシア選手権後、欧州選手権への男子派遣選手を巡ってもめている、というのはフィギュアスケートファンならご存知の人も多いかもしれない。

ロシアンナショナルリザルト

ロシア選手権男子シングルは、
1位)エフゲニー・プルシェンコ (30歳)
2位)セルゲイ・ヴォロノフ(25歳)
3位)コンスタンチン・メンショフ(29歳、ただしプルとスケート年齢は同じ)
4位)アルトゥール・ガチンスキー (19歳)
5位)マキシム・コフトン (17歳)
6位)ヴラディスラフ・セズガノフ

となったが、3、4位の2人を飛ばしてプルシェンコ、ヴォロノフ、コフトンを選出するという意向を評議会は決めた。
選手権への派遣選手をだれにするか、の揉め事はどこの国でも起こるし、日常茶飯事、と言っていい国も多いのだが、今回の件で興味深いのは、

落選した選手当事者(やコーチ)ではなく、そのほかの複数の選手がネット(ツイッターのインタグラム)を使い運動を起こした、ということだ。
旗手となったのは優勝ペアの男子、マキシム・トランコフだ。

「フィギュアスケーターたちの抗議」と題された英文記事


ここまで騒ぎが大きくなったのは、トランコフの行動力やメンショフの人望に与るところが大きいが、選手たちがこの選考に対して、「他人事ではない」「明日は我が身」と思ったことがあげられるだろう。



確かに連盟は未来のことを考えなければならないだろうが、選手たちは現在を戦っている。自分の血と汗であがない積み上げてきた成績を、単に年齢、という理不尽な理由で退けられるのはたまらないと思う。
そしてある意味、伸び悩む若手や中堅、怪我や病気でブランクができてしまった選手たちにとってはメンショフは希望の星だったのではなかろうか。

日本でいうと、鈴木明子選手的な立ち位置、と考えていただくとわかりやすいかもしれない。

まして、今年のメンショフは昨年よりもプログラムの内容を上げ(4T-2Tを4T-3Tに、1本だったFSの3Aを2本に)、国際戦では自己最高の成績をたたき出した。現在彼は今シーズンの世界ランキングではシニアでロシアトップを独走している。そしておととしにはロシアンチャンプにもなっている。
一方、コフトンは、といえば確かにJGPS連続1位、ファイナルでも1位、という立派な成績を上げているのだが、現在ジュニアでトップクラスの成績を誇るジェイソン・ブラウンやジョシュア・ファリス、日野龍樹といったところとはJGPSでの対戦がない(ハンヤンとは1度対戦して勝っている)
そしてこれはあくまでもこれらはジュニアの成績でしかなく、昨年の彼は国内戦で崩れジュニアワールドの出場もかなわなかった。唯一、と言ってもいいシニアの試合である国別対抗は12位。
そして、彼はまだ17歳。複数年ジュニアでやれるのだ。ジュニアでメダルを取ってからでも遅くない、と考える選手がいても当然だろう。

シニアとジュニアの肌合いの違いは、選手たち自身が一番知っている。


評議会は選考理由として、ベテラン、中堅、若手、という年齢的なバランスを考えて選んだ、とコメントしている。 また、1,2位は無条件で選出するが3枠目は評議会の選考、というのも明らかにされていたようだ。だから、理屈からいけば確かに違反ではない。
しかし、この選考方法が明らかになっていたとしても、選手・コーチ側からは文句はつけられない。
「じゃ、2位以内に入れば?」と蹴られて終わりだ。


そして、選手たちが声を上げるのは、特にメンショフについてはこれが初めてではないからだ。昨季(つまり今年)の国別対抗も、若手にチャンスを、との連盟の意向で当時彼よりランキング下位だった若手のブッシュとコフトンが派遣され、彼は同時期に行われたカレンダーコンペであるイタリアのガルデナ杯に回されたいきさつがある。

評議会の意向が発表されてから行われたであろうメンショフのEX.
リンクサイドで彼を見つめるロシアンジャージのトランコフが映っているが、目つきが尋常じゃない。この時から思うところがあったのだろう。話しかける役員(?)の言葉も耳に入ってない感じ。しかし、そんな中で淡々と滑るメンショフがなおさら胸を打つ。



トランコフのツイートから
menshov

そしてこういった騒ぎの中、メンショフのコーチであるエフゲニー・ルカヴィツィンはTVのインタビューに答えていた。タラソワやミーシンのような口舌火を噴く、、といった話しっぷりのロシアンコーチに慣れていると、このように余計な感情を表に出さず、淡々と主張を述べるルカさんが私としては好ましく思える。頼もしい指導者だ、と思う。
インタビュー動画


トランコフは自らのツイッターの中で激しく評議会をののしり、選手たちはすべてメンショフの味方である、と書き添え、ロシア語で(For Menshov)というハッシュタグ(#заМеньшова)を作り、ファンやマスコミへの呼びかけを始めた。
応じた選手は、レオノワ(女子シングル)ソロビエフ(アイスダンス)、と各カテゴリーにわたる。コフトン自身もそのRTに参加していた。
彼は、JGPFのあと、
「ナショナル3位に入れたらユーロに出たい」
と言っていたそうだが、不本意な出来でゴリ押しされても、けして喜べない、と思ったのではなかろうか。
トランコフも、ツイートの中で「コフトンには責任はない」と言明し、彼との2ショットも公開している。

メンショフが代表枠を外れ、それに選手たちが抗議している、という記事。
メンショフのコーチのルカヴィツィンやコフトンのコーチのタラソワのインタビューもある。

その中のルカヴィツィンのインタビュー

++++++
メンショフとコフトンの件は)理不尽であり受け入れがたい話です。コンスタンチンは今シーズン、安定した演技を続けてきて、織田、ブレジナ、ヴェルネル、といった様々な強いスケーター達を打倒してきたのです。こういった事実から彼がユーロ出場に相応しい選手であることは証明されています。そしてメンショフは全露でコフトンとガチンスキーに勝ちました。この勝利は彼の血と汗によってもぎ取ったものです。
私は、客観的に見て明らかに強い、という理由から選考会を免除された先例があることは知っています。しかし、代表決定の戦いにおいて勝ち抜いた場合には議論は不適切です。メンショフがSPで良い成績を残せなかったのは、破損してしまった靴を交換したばかりで、それに慣れておらず演技に集中できなかったからです。が、FSの前にはそういった問題は解決され、彼の演技は上手くいきました。そして最終的に3位となったのです。

訳注)複数対戦のある織田とは1勝1敗、ブレジナとは3勝1敗
++++++


そして、選手たちはスポーツ大臣とプーチン大統領に向けて公式文書を出すことも決議した。そこには、サンクトペテルブルクのスケ連会長の署名もある。

それに関する記事

その中のサンクトペテルブルグのスケート連盟会長のコメント
++++++

私はアスリートは全て同じスタートラインに立つと考えている。良い成績を残したものには名誉を。そこには役人や官僚は無用。競争によって決まるものだからだ。例えば米国では全てのスポーツにおいて全米選手権に勝ち抜けなかったものは世界には出られない、という厳しい原則がある。それによって、選手、指導者による激しい競争原理が保たれ、高いレベルを保っている。スケートにおいても然りだ。しかし、わが国ではではしばしば選手の運命は官僚的、事務的な事情で決定される。メンショフに関する決定は不公正だ。彼はユーロに出場する権利がありそれだけの価値を持った選手である。私は代表チームを形成する上で、スポーツの原則を守るべきであることを(選手たちの)要求とともにスポーツ省に伝え、また更に強いロシアの実現と公平でないスポーツ省の改正をも含めて、サンクトペテルベルグの連盟を代表して訴えるつもりである。

++++++

そしてこれを受けて、スポーツ大臣は、ソチ五輪が控えていなかったら、チーム編成はまた違っていたものになっていただろう、とコメントしている。どうやら、再び評議会にかけての結論となるようだ。

スポーツ大臣のコメント記事

昔っからロシアは「若くして秀でた才能」というのが好きだ。(そしてそれをいじくり回して潰すのも得意だ)確かにコフトンの今年の成績は無双してるんだが、あくまでもこれはJrのもの。そのへん選手たちはシビアに見てるんだろう。
ピョンチャンに向けて、じっくり若い芽を育ててもらいたい、と思う。結局それがスケート界全体のためにもなる。バンクーバーの二の舞はもう踏んでほしくない。あれでセリョージャもボロデュリンも結果として遠回りすることになってしまった。

そして、コフトンをソチへ、というのであればソチ複数枠が必須になる(プルシェンコ、ガチンスキーがそろって外れるとは考えがたい)であろうが、そうであったとしてもコフトンはまだ18歳、カルガリーのペトレンコになれるとロシアスケ連は思っているのか?

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胸が痛いです…

こんにちはDora Quadski様。
今回の件に関して是非Dora Quadski様の意見をお聞きしたいと思っていたので、記事にして下さってありがとうございました。

ロシアのスケート連盟がコフトン選手を押しているというか、育てたいと思っているのはなんとなく感じていたのですが、今回の結果でまさか代表に選出するとは…正直驚きました。
ユーロは3枠あるし、プルシェンコ選手とヴォロノフ選手がいれば3枠は確保できるから、あとは誰でも良いと考えたのでしょうか?
今回の運動にコフトン選手自身が参加しているというのを見て胸が痛かったです。
彼自身あまりメンタルが強いわけでもプレッシャーに強いタイプでも無いと思うので…。
この結果誰が選ばれてもその選手への別種のプレッシャーがかかるし、結果如何ではさらなるバッシングの対象にもなりかねないと危惧しています。

あの微妙な空気の中、EXを淡々と滑ったメンショフ選手の心中を勝手に慮ってしまって、ロシアのナショナル以来なんとも言えずもやもやしています。

ワールド代表も…どうなるんでしょうね。
プルシェンコ選手は出ないという話もありますし、となるとヴォロノフ選手
か他の誰かに五輪枠取りの重圧がかかってしまうのでしょうか。
そしてもし1枠のままならまたプルシェンコ選手が選出される…のでしょうかね…。
彼の事情もわかりますが…それでもちょっと…と、思ってしまいます。
彼が強いのも解るのですが…なんともこう…。
すみません、個人的な愚痴でした。

No title

どのオリンピックか忘れましたが、かつて伊藤みどりが、

『(全日本で)2位の選手がオリンピックに行くわけにはいかないですから全日本は優勝したいです』

とインタビューに答えていた事があります。

その時点で伊藤さんのオリンピック出場が決まっていたかどうかはわからないですが、みどりさんはそのへんわきまえていたなぁ、と今更ながらに感じます。

以前メンショフさんが、ナショナル優勝にも関わらず、世界選手権には選抜してもらえなかった事を思い出します。

連盟は「ベテラン、中堅、若手」と言ってますが、これがプルシェンコなら?
メンショフさん1位、もしくは2位で、プルシェンコが3位以下なら??
そうだとしても実績によって連盟はプルを選んだでしょうね。

出来レースを疑いたくなる今回の選出でしたが、とらんこふアニキの反乱によって、選手達の声があがり、事件となった今回の件、どうか頑張った人に当然の権利が与えられることを願ったやみません。

メンショフさんはここ2~3年の間に見違えるほどの上達を見せています。

どらさん仰るとおり、ジャンパーとしてだけでなく、スケーティングも見違えるほどうまくなりました。
今季のPG、ステップシークエンスはトップ選手と比べても遜色内ないほどです。
スピードにのり、エレメンツのつなぎがスムーズになりました。
そしてクワドジャンパーとしての力を今もなお保っている。

彼の年齢を考えるなら、どれほどのトレーニングを積んだのか、近くで見ていた仲間やコーチなら、今回の選抜がどれほど理不尽に思えたか。

マックスが起こしてくれた今回の乱で、連盟が考えてくれることを願ってやみません。



たとえメンショフさんが選ばれなかったとしても、連盟は選手達の声を考慮せざるを得なくなるのだと思います。

いやな予感はしていましたが。

メンショフを行かせてあげたかった。がんばった選手が報われるのがスポーツじゃないのか・・・。彼の気持ちを思いやると、かわいそうで、そして、エキシビの放映を見たら、たまらなくなった。どんな思いで新年やクリスマスを迎えたのか、大きなお世話かもしれないけれどやりきれない。
これはもう、肩たたきではなく、「あんた、いいかげんにやめなはれ!」と言っているんだと思う。そして、彼は本当にやめちゃうんじゃないか。
そもそも、全ロ前に連盟サイトの「欧州派遣は、1、2位確定。3位は協議による。」という文言を見たときから、これはメンショフ対策ではないかと私は疑った。今期、彼は頑張った。国際試合での評価も上がってきた。しばらく不調だったヴォロノフより上といってもいいかもしれない。
でも、連盟はきっと、欧州派遣は、プルシェンコ、ガチンスキー、ヴォロノフと決めていたのだ。いや、本来は、もっと若手のブッシュかドミトリエフあたりに頑張ってほしかったのだろうが、どうも見込みなさそう・・・。で、ガチンスキーは確かに好調ではないけれど、さすがにミーシンコーチのもと、全ロまでには、仕上げてくると信じていたはず。問題は、3位。まかりまちがって、ヴォロノフではなく、「頼まれもしないのに」勝手に頑張ってしまった(ナショナルチームでの補欠の身分は、昨年の全ロの順位からしてしかたがないが)メンショフが3位の場合にどうするか・・・・。(メンショフが2位になることはそもそも連盟は心配していない。なぜなら、彼の評価は国内ではとても低いから。)いくらなんでも、試合前から「あんたサ、欧州は戦力外よ。」とも宣告できないし。そして、案の定その通りになってしまった。
それでも、ガチンスキーを派遣したいところだが、いくらなんでも理由付けができない。それに、本人にあまりのプレッシャーを与えてつぶしてしまっては大変。うまい具合に、コフトンが5位に。しかも、タラソワ大先生の生徒。これ以上の選択肢はない。それに、所詮欧州ですからね。プルシェンコが出かけていって、来年2枠以下になるなんてありえないし。ということで、一件落着。誰が訴えようが、それで覆るようではそれこそ無茶苦茶でしょう。
それにしても、なんて運の悪いメンショフ。この場に及んで靴が問題になるなんて。さらに、3勝1敗のブレジナとの1敗がよりにもよって、ロステレだった。1点差以下でグランプリ発のメダルを逃すことになってしまったのだから。(ここで3位になっていても連盟の評価はあがらなかっただろうが、自国で表彰台上ることができたのに・・・。)そして、さかのぼれば、ロシアチャンピオンになったシーズン、ワールドが1枠だったのも不運。せめて4月の国別に出場と思っていたら、震災のため開催中止。
ここまで、だらだら書いてさすがに、偏見に満ちた投稿かなと少し反省。メンショフチームの選曲やプログラムはこれからも見てみたい。やめないでほしいけど、このような待遇には2度とさらされてほしくないとも思う。私がコーチなら、もうやめさせるかも。結婚、本格的なコーチ活動とこれからも楽しい人生が待っているのだから。実際彼は、とてもいいコーチになると思う。
最後に余談だが、トップに選手が載っていない表彰式なんてはじめて。奥様のお産という事情は、どうなんでしょう。チケットを販売していなかったようなので、エキシビに出演しなくても問題ないから?何でもありなんだね、ロシアって。ついでに、J-スポで、「こんなに長く続けているなんて、よっぽどスケートが好きなんですね~」と「のんきな」コメントをしていたが、無性に腹が立った。違うでしょ!

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プロフィール

Dora Quadski

Author:Dora Quadski
確かにフィギュアはジャンプだけじゃないですが・・・でも、やっぱりジャンパー・タイプのスケーターが好きです。
最近応援しているのは、ロシアのセルゲイ・ヴォロノフと、2009年に国別で来日した際に惚れ込んだコンスタンチン・メンショフです。
日本では小塚崇彦君、町田樹君を絶賛応援中!
 
他に、 『スター・トレック』(特にTOS 、TNG)も大好きです。
中でも、P・スチュワート扮するピカード艦長の大ファンです。もちろん、P・スチュワート自身も!
ただ、性格的にはヴァルカンに憧れるクリンゴンって感じかな(笑)ウォーフとサレックに惚れてますw。

そうです、わたしはトレッキー&シャーロッキアンなのです(笑)

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