改】飛んだら、降りて、還って ナンボ ―撃墜王とクワドジャンパー

以前友人と話しておりまして、彼女は私の影響で(笑)最近またフィギュアに興味を持ってくれているのですが・・・いわく、
「なんか、転倒多くない?私がよく見てたのは長野とかソルトレイクだけど・・そのころに比べると、なんかころころ転ぶよね」
たしかに・・・。

旧採点のころは、転倒するとSPでは技術点で0.3~0・5のマイナスでしたから、はっきり言ってコケたら終わり、って感じが強かったです。
現在のシステムでは、たとえ転倒しても、その他のエレメンツできっちりレヴェル、ないし加点がもらえていれば、それほど多く響かない場合もある。いわば、転倒による減点の計算ができてしまうんですね。けれども、プロの印象そのもの、を評価の対称にしていた旧採点では、1回の転倒がどれほど減点になるか、今ほどきっちりとしたとした計算が立たなかった。プログラムを形成するどのジャンプにおいて転倒したかによっても減点具合が異なってきましたから。

Quadski、なんてハンネつけるぐらいクワド好き、ジャンプ大好きな私ですが、好きになるジャンパーには条件が一つ。そう、『コケないこと』。当然、練習段階でコケない選手なんていませんから、本番において、ですが。
どんなに大きく、回転数の多いジャンプを跳んだとしても、コケたら何にもならない。ジャンプは降りてナンボです。
そう、着氷まできっちり決めなければ、それはジャンプではない。私の価値観からいけばそうです。
当然、回転不足だの、グリ降りだのも論外。←これは私にとってはコケるよりダメw


ただ、追記しておきますが、転倒やタッチダウン、ステップアウトなどは、ある意味挑戦の結果でもあるわけなので、一概に否定はできません。
今風に不等号で表せば、
回転充足美麗着氷>回転充足SO,TD,OT>回転充足転倒>回転不足(UR・DG)着氷>回転不足SO,TD,OT>回転不足転倒>跳躍前転倒(スリップなど)
っていう感じになります。



そう、ジャンプはきっちり回りきって降りてナンボの技なんです。
そして、スケート靴の構造を見ても解るとおり、きっちりと回りきって降りていれば、着氷後の綺麗な流れも出るはずなんです。


スピードのある助走から、重力に解き放たれるように舞い上がり、美しい放物線を描いて、流れるように着氷するジャンプ。フィギュアスケート観戦の醍醐味ですよね。

長野五輪後、いわゆる「空中戦時代」に突入し、多回転ジャンプ、高難度ジャンプが高い評価を得るようになりました。そんな中、「降りちゃえば勝ち」的に、とにかく終わったときに一本足で立ってりゃいいや、的なジャンプを跳ぶ選手が増えたことは確かです。いわゆる「グリ降り」ってやつです。

最近はあまりないようですが、昔は実況アナが、ジャンプの着氷に成功すると「立ちましたー!」とか、「降りましたー!」とかよく言っていたものです。(最近また増えたかしらww)
あと、解説の五十嵐さんとかも、「ジャンプが終了したときに一本足で立っている、っていうのは本当に大切なことなんです」とよくおっしゃってました。
海外の動画を見ても、実況、ないし解説が「2フット」という言葉をよく使いますね。1本の足できちんと着氷できているかどうか、が如何に大切かどうか、の証左です。

そんな私が大好きなクワドジャンパーの一人、といえば、そう、エルヴィス・ストイコです。
現役最後まで高難度のジャンプに挑戦し続けたエルヴィスでしたが(ソルトレイクのフリー、『ドラゴン』ではクワドルッツを予定していたそうですから)、彼は転倒を非常に嫌っていたそうです。

「転倒はプログラムを壊すから」

それが理由でした。(これは、旧採点時代の選手ほとんどがそう思っていたと思います。)
このすばらしい安定感をごらんください。ワールド初の4-3を成功させた『ドラゴンハート』です。
エルビス・ストイコ 1997世界選手権 FS インタ・表彰台付き
http://www.nicovideo.jp/watch/sm5875097





当時ですから、3連のコンボは許されていませんでしたが、それでもこの鬼構成!
「トリプル全種、クワド、3つのコンボ、2本の3A」(実はこれは私の考えるジャンプの理想形の1つです。もう1つはこちらで書きました)
ジャンプにおける最高のウェルバランス ―アレクセイ・ウルマノフ
これらは、ジャンプに関しては、現在でも最高難度でしょう。

とここまで書いてきて、どこかで同じことを・・と思いました。そう、この方がおっしゃってたんですね、旧日本軍のエースパイロット、「大空のサムライ」とも称された坂井三郎さんです。

戦史映像エースパイロットの証言 坂井三郎氏 「零戦を語る」


この坂井さんの戦闘機乗りとしての信念は「どんな手段であろうと目的を達成し、且つ生還し、また飛ぶ」という明快なものでした。パイロットにとって何より大切なことは、一度飛び上がったなら、必ず帰還し、降り立つことです。これが、ジャンパーとの共通点なのでしょうね。
そのために彼が実行していたのが、搭乗機(零戦)の特性や性能、能力、果ては弱点を極限まで把握し(長い航続距離と優れた運動性能を持つ反面、軽量化からくる防御性の弱さ、また制限速度を超えれば空中分解の危険がある等等)その範囲内で最大限の力を引き出して戦う、という至極当たり前ながら、非常に難しいことでした。

そして、「飛行機を上手に操縦すること」が身上であった坂井さんの誇りは「ただの一度も飛行機を壊したことがないこと」、そして「僚機(同時に出撃した味方の飛行機)を殺したことがないこと」でした。大切なのは撃墜スコアではない、と繰り返し述べておられます。
いくら撃墜スコアをあげても、還ってこなければ何にもならない。これが、このエースパイロットの信念でした。

私はアスリートにとってもっとも大事なことは、「自分の出来ること、そして出来ないこと←(これが大事)を知ること」そして、「それを最大限に発揮するにはどうすればいいのか、きっちりとカバーするにはどうすればいいのか」をのみこんでいることだと思っています。まさに、上の動画で坂井さんが零戦と自らに対して述べていることと同じです。

ですから、一流アスリートにはバカではなれない。自分の能力を冷徹に判断し、自己客観視ができなければならない。

実際、高難度のジャンプに挑戦しつつも転倒しない、というのは、いわば正反対のことを同時に達成しようとしているに等しい。非常に難しいことです。自分の体力、運動能力を最大に高める努力をしたうえで、今現在の自分が何ができるのか、そして出来ないのかを冷徹に見つめる眼をも持っていなくてはなりません。

自分の能力だけでなく、その時々のリンクの状態、体調、そして精神状態まで冷静に見つめ分析して、その技に挑むかどうかを決定するわけです。無理だ、となったら潔く中止する、乃至は難度を下げる勇気を持つことも忘れてはなりません。無謀な挑戦は怪我をも誘発しかねませんから、これは本当に大事なことです。

特に旧採点当時は、プログラム全体の印象が点数になりましたから、転倒、というのは点数的にも、そしてプログラム構成上でも、大変なダメージだったのです。ですから、転倒するくらいなら、難度を下げてきっちり降りる、その代わりリカバリーのシミュレーションをしっかりしておく・・それが大切だったのです。

例を挙げましょう。
1997年のチャンピオンシリーズファイナル(現グランプリファイナル)のウルマノフです。
Aleksei Urmanov (RUS) - 1996/1997 Champions Series Final, Men's Free Skate


タイミングが合わなかったのか、中盤のルッツとアクセルをダブルにしていますが、そのリカバリーとして、終盤のジャンプシークエンスのところに3A-2Tコンボを持ってきた。(本来なら確かここは3S~インサイドアクセル~ハーフループ~3TSEQ,だったと思います)

どんな失敗にも対応できるよう、いくつものシミュレーションをしていたに違いありません。だから、中盤のルッツとアクセルを無理せずダブルに変更することができた。
しかし、4分過ぎに3A-2Tのコンボ、っていうのも半端じゃないスタミナ、というか根性ですよね、こんな優しげな顔してて(笑)

ただ、ウルマノフは高身長、かつスケーティングにスピードがあった(リンクサイドの看板の文字の流れを見てください)ので、少しでも回転が合わなかったり着氷の際のエッジがぶれたりすると、氷に跳ね返されるような形での転倒が多かったです。本当に痛そうなコケ方をしていました。実際、彼の選手寿命を縮めたのはジャンパーの宿命、ともいえる足の怪我でしたが・・


その代わり、回転のピシッと決まったジャンプは美しい放物線で、着氷時には伸びがあって、本当に素晴らしかった。


伊藤みどりさんは
「スケーティングスピードが上がれば上がるほど、回転・着氷の制御が難しくなり、転倒しやすくなる」
とおっしゃっていましたが、まさにそれです。タケシや現在の女子で言うと、コストナーなどがそれに当てはまるでしょう。そういった制御が困難だから、ジャンプの入りにスピードがあり、綺麗な流れの中で着氷できる選手にはGOE+がつくのです。

回転不足ながら無理やり着氷してしまう、いわゆる「グリ降り」の技術(といっていいのかわかりませんが)が、どちらかというと女子から生まれてきた、というのも女子のほうが男子に比べてスピードが劣るから、といっていいかもしれません。


そう、やっぱりジャンパーの条件は、ひとたび舞い上がったなら、絶対降りるんだ、という強い意志、というか根性を持つこと。
ジャンプは回りきって降りてナンボです。
それも、現在のルールが回転数によって基礎点が定められている以上、きっちり回りきって降りなければならない。立ちゃぁいい、ってもんじゃないんです。

そう、そして初めて、ジャンプ、という技として完成するのです。


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大賛成!

こんにちは。はじめまして。

ジャンプは美しくなければならない!私もそう思います。
この頃、「まず取り敢えず降りときゃ良いです」「成功ですよねー」が多いと思うのは私だけ?


キレイに片足で立ち、流れてる事!

回転不足やツーフットをごまかさないで!
←競技者としては見つからなきゃ良いです、の心理が働くのは仕方ないと思うので、ジャッジでキッパリ判定して欲しいです。


勿論転倒はいけないけど、ちょっとした事で転倒しちゃうものは仕方ない、のでやはり、ぐり降りなどは厳しく判定されるべきだと思います。

となると、テレビなどの実況で「ジャンプ、成功です!!」がよろしくないのでしょうねー。

大空のサムライ

こんにちは
(こちらでは)はじめまして。

 大空のサムライの貴重な生映像のご紹介、有難うございます。ダンナが飛行機オタクなもので、本はパラパラとめくったことがあったのですが、映像を拝見するの初めてでした。
 坂井さん、「エース」の称号から、もっとギラギラした前のめりの方を勝手に想像していたのですが、実に冷静沈着な方ですね。零戦の性能に関しても、まず評価しているのが、優れた操縦性ではなく航続距離だというのも意外でした。でも、

>いくら撃墜スコアをあげても、還ってこなければ何にもならない

という信念に照らすと頷けます。

フィギュアスケーターでも、戦闘機乗りでも、登山家でも、本物は、決して自分に酔ったりしない。できることとできないことを冷静に見極め、その中で最大のパフォーマンスを発揮するよう戦略を立てる...ということなのでしょうね。身体能力はもちろん大切ですが、それを活かすだけの頭がなあってこその一流なのだと改めて感じました。

マイクロさんへ

はじめまして、いらっしゃいませ。

ご賛同ありがとうございます。そうなんですよねー。

>この頃、「まず取り敢えず降りときゃ良いです」「成功ですよねー」が多いと思うのは私だけ?

これは本当にそう思います。「立った、立った」って、クララですか?みたいな。
とりあえず1本足で降りる、ということは確かに大切ですが、基礎点が回転ごとに差がある以上、回りきっているかどうかはきっちり判定して、そうじゃないものとは差を付けて欲しいですね。
ただ、あくまでもこれは「ジャッジの判断」に委ねられるので、ジャッジ不信ありき、の人や陰謀論ありき、の人にとってはそれが不満の種になったりするんだと思いますが・・

ただ、転倒はGOEからと、それとはまた別にディダクションと、2重に減点されてもいるわけですから、「転倒しても○○だった」という人には、それも見て欲しい、とも思いますね。


ジュリーママさんへ

いらっしゃいませ、コメントありがとうございます。

実は、坂井さんを例に引くことは「アスリートのたとえに軍人?」的な拒否反応を起こす方がいるかと思ってためらったのですが、彼の考え方の根本はまさに一流アスリートのそれと同じだ、と思いまして、少しでも多くの人々に知ってもらいたい、と思い、うpいたしました。

>零戦の性能に関しても、まず評価しているのが、優れた操縦性ではなく航続距離

アスリート的にいえば、スタミナ、基礎体力、っていうことになるんでしょうね。

やっぱり本物、と言われる人にはどこか共通点があるのだな、と私も改めて痛感いたしました。
プロフィール

Dora Quadski

Author:Dora Quadski
確かにフィギュアはジャンプだけじゃないですが・・・でも、やっぱりジャンパー・タイプのスケーターが好きです。
最近応援しているのは、ロシアのセルゲイ・ヴォロノフと、2009年に国別で来日した際に惚れ込んだコンスタンチン・メンショフです。
日本では小塚崇彦君、町田樹君を絶賛応援中!
 
他に、 『スター・トレック』(特にTOS 、TNG)も大好きです。
中でも、P・スチュワート扮するピカード艦長の大ファンです。もちろん、P・スチュワート自身も!
ただ、性格的にはヴァルカンに憧れるクリンゴンって感じかな(笑)ウォーフとサレックに惚れてますw。

そうです、わたしはトレッキー&シャーロッキアンなのです(笑)

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