ドミトリー・アリエフ:「僕はファイナルへの扉を最後に閉めて、それを最初に開いた」(1) ―ジュニアグランプリファイナル男子シングル
ジュニアグランプリファイナル男子優勝のドミトリー・アリエフの試合後のインタビューが入ってきたのであげてみます。インタビュアーは、オリガ・エルモーリナさんとタチアナ・フレイドさんです。
ロシア選手権までになんとか全文を・・・と思ったのですがダメでした。とりあえずできたところまで上げます。続きもなるべく早く、と思っていますが、どうか気長にお待ちください。
今回もロシア語者の友人にアドバイスを仰ぎました。本当にありがとうございます。m(_ _)m
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ドミトリー・アリエフ:「僕は最後に扉を閉めて、それを最初に開いた」
ドミトリー・アリエフは、最後の選出メンバーとなったジュニアグランプリファイナルにおいて優勝した。試合後にスケーターは、インタビューで彼自身、家族、そして以前の試合のことについて率直に語った。
Q:ジーマ(ドミトリーの愛称)、あなたは最後尾の車両に飛び乗るようにしてファイナルに選出されましたね。どんな思いでマルセイユに来ましたか?
D:今季のグランプリシリーズにおいて、特に第2戦のリュブリャナでは、僕にとってベストの結果を出すことはできませんでした。
第一戦では良い滑りを見せることができました。その時は、4回転ジャンプの2本入った古いフリープログラムを滑ったのですが、オストラヴァで初めてこのプログラムをを見せることができました。
そして、リュブリャナでの試合がありました。この大会に向けては、よい調整が出来ていました。ショートプログラムは通常通り滑れました。まあ、これからなくしていきたい欠点や小さなミスはあったけれど、ショートではトップになり、僕は自信を持つことができたんです。けれども、5番滑走であることのストレスや待機時間の長さが僕に道を踏み外させました。そう、僕は“燃え尽き”てしまい、リュブリャナの大会をぶち壊しにしてしまったんです。(訳注1
そのとき、ファイナル出場の確率は50%になってしまったことが僕にはわかりました。がっくりしました。
けれども、まだマルセイユで滑る機会があると言われ、それのすべては最終戦にかかっていると聞かされたときには、正直に言います、僕の人生の中であれほど気を揉んだことはありませんでした。
アンドレイ・トルガショフが118ポイント以上獲得したら、彼のファイナル行きが決まる。もし、彼がそれに届かなかったなら、僕が行ける、ということを僕は知っていました。
最終戦が行われていた時、僕は祖母と一緒にテレビの前に座っていました。僕は表に出すことはしませんでしたけれど、もしあなたがあのとき僕の心の中がどうであったか知ったら…
アンドレイがキス&クライに座り、僕は彼の点数が出るのを待っていました。そして、彼の点数が118にとどかなかったのを見たとき、僕の目からは涙がこみ上げてきました。いいえ、泣きはしませんでした、けれど感情が高ぶって。本当にグランプリファイナルで滑れるチャンスを得てどんなに嬉しかったでしょう。僕は即座に言いました ― 神よ、感謝します。
そしてファイナル出場が決まり、僕は6番目となって最後のドアを閉じたことを悟りました。しかし終わってみれば、最初にそれを開けたのは僕でした。
グランプリシリーズの大会と、ファイナルでは、準備の形が違いました。僕たちはファイナルへの準備は違ったやり方をして、それがうまく作用しました。
Q:将来に向けて、このファイナルへの準備の方法の秘密を教えていただけますか?
D:マルセイユでの試合のあとには、もちろん、今までの全てを更に分析しなくてはなりません。
グランプリファイナルの準備についてですが、僕たちの練習内容は特別なものになりました。
まず、ランスルー(通し練習)を増やしたことです。
僕は“精神的な意志の強さ”で最後まで滑りますが、ランスルーの最後に、まるで羽がもぎ取られたようになるのを僕たちは目の当たりにしました。
そして、何が関係してそうなってしまうのか、考え始めました。
肉体的に、僕はそんなに弱い訳ではありません。
氷に乗る前に、少し違ったウォーミングアップを自分自身に課したのです。ウォームアップのタイプを変えたのです。
そして、小さなステップの一つ一つ、スピンの回転速度に至るまで、仕上げていったのです―すべてを完璧に。
Q:あなたのお父さんはアスリートがいかに練習をするかをしっかりと知っているクロスカントリースキーのコーチですよね。あなたの練習に役立つようなアドバイスを求めることはありますか?もしかしたら、彼は何かレコメンテーションをくれますか?
D:お父さんはアドバイスをくれます。が、彼のアドバイスはあくまでも“予定外”です。僕には僕なりのトレーニングプロセスがあります。―氷上練習、陸上でのトレーニング、氷上練習、バレエレッスン…
お父さんは課題をくれ、走ったり、他にもなにかやらないといけないと言います。僕も走りに行くことはできますが、時々僕自身の準備プランに合わないこともあります。
例えば、僕は休息の時間をとります、回復することが必要ですから。
お父さんは僕の練習にとくに口は出しません。
なぜならば、クロスカントリースキーは周回するスポーツです。全く違う筋肉を使うし、呼吸のコントロールも、筋肉への酸素の循環のさせ方も、フィギュアスケートとは全然違っています。2つのスポーツは非常に対照的です。
(フィギュアスケートの練習では)滑っている時、ちょっと息をついたり、追加したりできますが、クロスカントリースキーではそんなことをしていてはダメです。
僕の兄、リョーシャ(アレクセイの愛称)は21歳ですが、今もクロスカントリースキーをやっています。彼は高いレベルの競技会に出場しています。時々、彼は僕にアドバイスを求めます。彼はクロスカントリースキーにおいて調整のための練習が必要で、フィギュアスケートのなかにはそういった練習がたくさんあるので、僕は彼の手助けをしました。もしも僕に何か周回の動きが必要となり、そのための練習量を増やすとしたら、その負荷に耐えられるようにするために、兄は僕にアドバイスをくれるでしょう。
リョーシャは良いコーチについています。僕は良いチームにいます。リョーシャのコーチは僕のお父さんをとてもよく知っていて、僕たちは様々なヒントを共有し合っています。
Q:もし問題が“肉体的な”もので、頭の中で起こっているのでないのならば、それを修正してゆくことができますね?
D:実は、問題は僕の頭の中にあるんです。実際は、どの大会も異なっていますけれども、することは同じで、ライバルたちのことも、何をしたらいいかもわかっていて、すべてのことに慣れています。しかし、演技開始前に思わぬことが起きたりすると動揺してしまうんです。
Q:例えばどんなことがあなたを脱線させるのかしら?
D:そうですね、なんでも。リンクに向けて選手を運んでいたバスのタイヤがパンクしたとか。または何かほかの事でも。そして、それが原因でへとへとになり始めます―なんでも理由になります…
Q:気にしないようにしたら?
D:ええ、その通りです。ですから僕は今それに取り組んでいます。問題が心理的なものであることを理解したら、すべてに対して別の方法で取り組むようになります。今僕は “平常心でトレーニングする”.ことを実践しています。
ワルシャワの後、ファイナルまで残り2週間半となった時に、マルセイユへの準備が始まりました。この期間、すべてのことをミスなしでやらなくてはならないんだとわかりました。
最初の3日間は、些細なことに気を取られて、気持ち的なものからくる失敗ばかりしていました。しかし、僕はじっくりと考え、自分に言い聞かせました、もしこの2週間半、きっちりとやりきれなくて、精神的なものに振り回されていたなら、到底良い結果は望めないだろうと。落ち着いて、結論を出し、休日のあとは平静に練習することができました―失敗はしない、必要ならやる、修正する。
そして、なんとか全てうまくいきました。
Q:どの時点でフリープログラムを変更することにしたのですか?
D:リュブリャナの大会の後です。
僕はヤグディンの滑る「仮面の男」を何度も繰り返し見ました。しかし、僕は真似をしようとしたのではありません。
リョーシャのそれは彼だけのもので、リョーシャがやったようには、他の人には誰も再現できないからです。彼はオリンピックでこのプログラムを理想的に滑りました。
ええ、僕は本当に僕のこのプログラムが気に入っていました。けれども、この曲を選んだのはリョーシャが原因ではありません。
僕たちは2つの曲のなかから、「仮面の男」を選びました。なぜならば、音楽が僕に鎖で繋がれるような感覚で繋がったからです。この音楽は力強く男性的で、その中に鋼(はがね)を感じさせます。
リュブリャナでの演技がひどいものであったことの具体的な理由はありませんでした。そして僕たちはその理由がわかりませんでした。僕は練習でプログラムを滑っていたし、とても良い状態でリュブリャナに来ました。僕たちは、なぜ僕がこのプログラムを作り上げることができなかったかわかりませんでした。ともあれ、僕たちはページを繰って、新しいプログラムを作ることにしました。早速音楽を決め、プログラムを作りました。次の試合はサンクトペテルブルグでのパニン・メモリアルでした。そのプログラムを僕はそこで初めて滑りました。
Q:しかし新しいフリープログラムは、全く異なったスタイル、違った音楽ですよね。どのようにして素早い切り替えができたのですか?
D:新しい曲は歌詞があり、このような曲では僕はより楽に自分を表現することができます。僕はそれを感じることができます。
「仮面の男」の場合、もし音楽が僕をもっと強く刺激してくれていたら、プログラムをもっとよく表現し演じることができたでしょう。
しかし、新しい曲は僕により近くて僕は動きから快感を得ることができ、満足を得ることができ、観客席の一人ひとりの観客の視線を一人占めににすることができ、なんというか、内側から湧きあがるような感情を味わうことができます。この新しい曲では、振り付けのほかに、感情を込めることができます。しかし、大事なのはやりすぎないことです、なぜなら―僕は理解し始めましたが―、丁度いいポイントを見つけなければならないからです。少し自分を抑えて、コントロールするのです。
Q:もしあなたが音楽をそう感じるのなら、本質的に繊細な人間ということですね。
D:個人的な特質、というか性格ですね。多くの人びとは、僕をとても感情的だといいます。
なにかの瞬間、些細なことでもなんでも気にしすぎるのです。痛み以外でさえも頭から離れなくなって振り回されてしまうのです。どうしてかはわかりません。どのように狂わされているのか。どうやって全てを処理したらいいのか。
でも、そうなんです。
Q:もしあなたが別の性格を持つ人物だったら、フィギュアスケートではなくクロスカントリースキーを選んだかも知れないですね。
D:それはイエス、ですね。
僕にプログラムを振りつける時には、僕をエネルギーで満たす音楽を使う必要があることがわかりました。
夏に、僕たちはショートプログラムを振りつけていました。(これは後にタンゴ「オブリヴィオン」に変更されたのですが)
まず最初は、僕はとてもこだわっていた、あるオペラの曲を提案しました。
僕たちは合宿のためにアメリカに行き、そこでこの曲をかけた時、鳥肌が立ちました。。
リンクではなく静かな所で注意深くこの曲を聞いて、何か新しいものを感じたり理解したりするために、ある晩僕たちは3人、僕と振り付け師のオリガ・グリンカ、コーチのエフゲニー・ルカヴィツィンとで座っていました。
音楽は大変力強いものでしたが、僕自身が最終的にそれを拒否しました。なぜならば、僕にはできなかったからです…。音楽は演奏されていて、僕はと言えば、もう少しで慟哭するところでした。喉に塊があるかのように…。僕は、この曲で滑るのは大変になると言いました。音楽は盛り上がらず、しかし、トランス状態になってしまって…。
Q:あなたはなんて繊細に音楽を感じることができるのでしょう。エキシビションで、あなたは「リュベー」(訳注2)というバンドのロシアについての曲で滑りますね。
これはエキシビションです。ええ、この曲は重いですが、力強いです。この曲は僕を引っ張ります。
でも、これはまるで絵画のようです―訪れては何かを見、直ぐに去ってゆく。立ち上がって、降参しないで、見ていたい、じっと見入り、思いを馳せたい、という時もあります。
音楽でもそうです。この「リュベー」の曲は心を揺さぶります。そして、ロシア語の歌詞の歌にEXナンバーを振りつける人は珍しいですし。
(続きます)
(訳注1:ここでジーマの言っている“燃え尽き”とは、перегоретьという単語(動詞)で、燃え尽きる、燃えてダメになる、(電球などが)切れる、という意味合いです。「緊張の糸が切れた」というような感じでしょうか。
(訳注2:「リュベー」とは、ロシアの男性ロックバンドです。1989年結成。ソ連時代から続いており、反体制時代を生き抜いたベテランのバンドです。英文Wiki⇒こちら
この歌はコーラスをバックにロシアへの愛情を朗々と歌い上げているものです。
歌詞はこんな感じ(リフレインが多いので概略です)
漆黒の闇をゆく
俺は愛馬とともに大地を駆ける
夜空には星が美しく輝き そこには俺1人
愛馬と俺だけがこの大地を疾駆する
俺は愛馬に跨りこの大地を駆け抜ける
果てしない大地よ
見ろ、大地に朝が来る
ああ、クランベリー色の朝焼け ああ、こんな素晴らしい処が他にあるだろうか
金色のライ麦 そしてカーキ色の亜麻
俺はロシアを愛している
歌え、金色のライ麦よ、カーキ色の亜麻よ
歌え、俺がどれほどこのロシアの大地を愛しているかを
俺は愛馬とともに大地を駆ける…
ジーマの雰囲気とスケーティングにすごく合っているので、来期のSPに…とも思いましたが、五輪年にこの歌詞はちょっと微妙かな。
=====ロシア語本文=====
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これ以降で、ジーマはこれからの技術的な目標や、フギュアスケートを始めたきっかけ、今までの道のりなどを述べています。非常に興味深いインタビューなので、なるべく早く全部訳したいと思います。
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