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「スケーター同士の“殺し合い”」 ―翻訳の楽しみ、そして


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(JGPFプレカン、左よりアリエフ、チェン、山本草太)

先日、ジーマことドミトリー・アリエフのロングインタビューの翻訳を上げたのですが、

加筆・訂正】「司祭は陰陽師に追いすがる」 ドミトリー・アリエフ ロングインタビュー

ちなみに、これが彼の演技です
(JGPS オーストリア大会 FS)


それについていくつかの補足と、私が「翻訳」というものについてどう考えているかについて書きたいと思います。

翻訳というものは、当然のことながら原文に忠実でなければならないのはもちろんですが、それと同じくらい(時にはそれ以上に)大切なのは、「日本語の読み物」として成り立っているか、ということだと思います。(お前の文がそうか、と言われれば自信はありませんが・・・)
ですから、私の場合、必ずしも辞書通り、文法に沿って訳しているわけではありません。そのあたりはなるべくその言語を日常的に使用している方などにアドバイスを仰ぎます。また、手元には必ず類語辞典を置きます。紙の辞書の方が、とっさの場合にはやはり利便性が高いですね。

また、生活習慣上の違いなどから、
「確かにその意味だけれど、こっちではそういう言い方はしないよなあ」
などという場合、言い換えをしたり、言葉を補ったりする場合もあります。あと、聞き手と話し手についてははあたりまえになってしまって、説明不足気味に感じる部分においては、原文にない言葉を補う場合もあります。訳注をつけても良いのですが、スムーズに読めるためにはそうしたほうが良い、と判断できる場合もあるのです。

そして、言葉は生き物ですから、辞書にない意味がどんどん発生していきます。
例えば、日本語の「やばい」、英語の「crazy」。
現在では辞書とは正反対の意味で使われることも多いです。前後の流れから意味を推し量り訳していくことも必要だと思います。

実際、あの翻訳では意訳を通り越してる、と自分でも思っている部分が何箇所かあります。


その1)
S:練習中、負けず嫌いで誇り高いライバル同士は、時に、あたかも「殺し合い」をしているように見えます。あなたも負けず嫌いでしょう?

この部分ですが、原文では「殺し合い」に引用カッコがついていたのみで、ダイレクトに「~しています」となっていました。
そのまま訳せば、
「“殺し合い”をしています」となります。(ちなみに“殺し合い”を表す単語は複数形)
当然、これは文字通りの取っ組み合いや殺し合いではなく、試合前に選手同士でバチバチ火花を散らして、プレッシャーの掛け合いをしている様子の記者流の表現なわけですが、いきなり「殺し合い」は物騒だろう、と思ったのと、以前羽生とハンヤンの接触事故などが起きたことで、日本人ファンの中には選手同士の接触や闘志を向き出しにする様子を忌み嫌う方もいるので、はっきりと比喩である、ということが分かるよう
「あたかも~見えます」 
という言い回しにしました。


その2)
S:あなたには「因縁の」というか「宿命の」と言えるようなライバルはいますか?

ここも実はどうすべきか悩んだ箇所です。
これははっきり言ってかなりの意訳、というか私の創作に近いかもしれません。
この「ライバル」につく形容詞は、原則的な、第一の、というような意味合いで、英訳すると
“principled”
となりました。
原則的な、ではイマイチ意味が通らないし、第一の、ではなんとなく軽い。重要な、では今現在そうなのか、ずっと継続してなのかがわかりづらい。頭をひねりました。
記者は次の段落で、モスクワに本拠を置く2つのサッカーチームをチームを「ダービー」と称し例に出しています。この2つのチーム、スパルタクとツェスカの関係性に関しては(訳注8)にも記しました。
つまり記者は、ジーマに
「あなたにとってスパルタクに対するツェスカのようなライバルはいますか?」
と聞きたいのだろうと解釈したわけです。
何度も何度も対戦を繰り返し、勝ったり負けたりして、対決自体が前世からの定めのようで、またその結果が自分の存在の根幹すら揺るがすようなそんな重い存在。
そういった対決相手、といえばよくスポコン漫画などで、「因縁の対決」「宿命のライバル」といった言われ方をします。まさに記者がジーマに尋ねたかったのはこれなのだろう、と私は思い、この2つの単語を用いました。
ジーマもこの問いには、「今は自分はそういった相手を決められるレベルにいないが、さらに登り詰めた時には、そういった相手に会えるかも知れない」というような答えをしています。


原文に忠実に、を第一義にする方からすれば、「創作じゃないか」「誤訳だ」と言われるかもしれません。文責は全て私にあります。


今回、このインタビューを訳すにあたっては、ジーマというスケーター、そしてひとりの少年がどういったことを考えているか、に突っ込み、皆さんに分かっていただきたい、知っていただきたい、と思い書いてきました。
思い入れが強い分、「贔屓の引き倒し」にならないよう気も配ったつもりです。演技やインタ動画を見たり、オフアイスでの表情を探したり・・。

特にこの動画が参考になりました。
Dmitriy Aliev and Alisa Fedichkina - 21st century Romeo and Juliet


そして、16歳の少年が年長の記者に向かってしゃべるときはどのようになるだろう、といったことも考えました。
インタビューの訳、というのは、当人をキャラ付けして喋らせる、ということでもあります。
一人称の選択をどのようにするか、喋りの語尾をどのようにするか。それによって、全くキャラが違って感じられてしまいます。
そして、私に見えるジーマ像と他の方に見えるジーマ像が必ずしも一致するとは限りませんから押し付けがましくならないように・・・。

疲れましたが、好きなスケーターの内面を知ってゆく、というのは心地よい疲れでした。
ジーマ、ありがとう。世界ジュニアでの神演技を祈っています。


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No title

こんばんは。インタビュー訳、とても興味深く読ませていただきました。こちらで書かれている通り、とても読みやすい訳でした。

翻訳とは辞書を引きそこに出ている対応語を使うもの、原語の意味を忠実に書き起こすものだと思われる方が多いらしいのに、かなり驚きました。

私は仕事として翻訳に取り組んでいますが、クライアントが求めるのは、まず何よりも「日本語の完成度」なのですから。もちろん内容に事実と違うことが含まれてはいけませんが。

全く言語構造が違い、文化や習慣もかけ離れた日本語を使って、原文の意図する内容を、いかに自然な表現に置き換えるかに尽きるのではないでしょうか。言ってみれば、日本語のセンスが問われる作業だと思っています。

その意味で、とても素敵な訳だと思いました。これだけの訳をこなすのにどれほどの労力を要するか良く理解できるだけに、お願いするのは気が引けますが、これからもお時間があるときに訳していただけると、とてもうれしいです。

Re: No title

いらっしゃいませ。

> こんばんは。インタビュー訳、とても興味深く読ませていただきました。こちらで書かれている通り、とても読みやすい訳でした。

ありがとうございます。こう言っていただくと、訳した甲斐があります。まして、プロの方からこうおっしゃっていただくと、本当にブロガー冥利に尽きます。

> 翻訳とは辞書を引きそこに出ている対応語を使うもの、原語の意味を忠実に書き起こすものだと思われる方が多いらしいのに、かなり驚きました。


実は、私もそう思っていました。ですから、私のやり方は邪道なのではないかと思い悩み、このエントリーを書いた次第です。
実際、「意訳すぎ」「誤訳」と言われたこともありましたので、評価していただけるのは本当にありがたいことです。
しかし、辞書通りの訳に引っ張られるあまり、「こういう言い方はしないのでは?」という言い回しが散見されたりして、モヤモヤしていたので、開き直って書いていこう、と決心したのです。


> 全く言語構造が違い、文化や習慣もかけ離れた日本語を使って、原文の意図する内容を、いかに自然な表現に置き換えるかに尽きるのではないでしょうか。言ってみれば、日本語のセンスが問われる作業だと思っています。


まさにその通りですよね。私も翻訳を行うたびに、もっと語彙数を増やさないと、センスを磨かないと、と思うことしきりです。


> その意味で、とても素敵な訳だと思いました。これだけの訳をこなすのにどれほどの労力を要するか良く理解できるだけに、お願いするのは気が引けますが、これからもお時間があるときに訳していただけると、とてもうれしいです。


ありがとうございます、本当に励みにあなります。またよろしくお願いいたします。m(_ _)m
プロフィール

Dora Quadski

Author:Dora Quadski
確かにフィギュアはジャンプだけじゃないですが・・・でも、やっぱりジャンパー・タイプのスケーターが好きです。
最近応援しているのは、ロシアのセルゲイ・ヴォロノフと、2009年に国別で来日した際に惚れ込んだコンスタンチン・メンショフです。
日本では小塚崇彦君、町田樹君を絶賛応援中!
 
他に、 『スター・トレック』(特にTOS 、TNG)も大好きです。
中でも、P・スチュワート扮するピカード艦長の大ファンです。もちろん、P・スチュワート自身も!
ただ、性格的にはヴァルカンに憧れるクリンゴンって感じかな(笑)ウォーフとサレックに惚れてますw。

そうです、わたしはトレッキー&シャーロッキアンなのです(笑)

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