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ID:39edbeそして「SEIMEI」へ・・・。獅子は龍の道を拓いた ―エルヴィス・ストイコ

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オータム・クラシックにエルヴィス・ストイコが見に来ていて、羽生さんの「SEIMEI」に賞賛を送っていた、と聞きました。
そうでしょうそうでしょう、と思ったのですが(笑)、彼は羽生さんの中に自らの後継者を見たのではのなかったでしょうか。
エルヴィスといえば、無敵のクワドジャンパー、のイメージが強いですが、私の中では彼のステップが忘れられません。パワーでグイグイ押していく、それでいて繊細な、音楽にものすごくハマった男らしいステップでした。

そして、なんといっても彼の功績はジャンプ等の技術ではなく、当時西洋音楽(それも特にクラシック)、西洋舞踏を根幹とする表現だったフィギュアスケートに、東洋テイストのものを持ち込んだ、ということです。そして、こういった東洋系のものは男子の一分野ともなっています。

カナダ育ちのエルヴィスが、どうしてこういった分野に目を向けたのか。以前(2007年)書いたものからあげてみました。

++++++++++++
 エルヴィスは、4歳のころからフィギュアを始めたんだそうですが、もうひとつ、幼いころから習っていたものがあります。それが、なんと、空手なんですね。
 
 エルヴィスのご両親は、両方とも東欧からの移民で(お父さんはスロベニアから、お母さんはハンガリー動乱を逃れてハンガリーから)。いわば、当時の冷戦の狭間で、大国間の政治に翻弄されて生きていらしたわけですね。そして、たどり着いたカナダで、家庭を持ち、何とか幸せをつかんだ。そして、生まれた子供に、お二人ともがファンだったという、エルヴィス・プレスリーの名をつけた。
  エルヴィス―。この名には、豊かなアメリカ(に代表される西側)へのお二人の憧れが、ひょっとしたら籠められているのかもしれません。。
 そして、お父さんは、自分の身は自分で守れるように、と物心ついたばかりの息子に、護身術を習わせた。その中で、エルヴィスが選び取ったのが、ブルース・リーに憧れたこともあって、空手だった、ということのようです。
 しかし、このご両親の半生を知ると、“自分の身は自分で守れるように”という願いに、ものすごく重いものを感じざるを得ません。'70年代当時のことです、今ほど子供が危険にさらされてたわけじゃない。そんな時代に、幼い子供に護身術って・・

 そして、エルヴィスはフィギュアスケートと空手、両立させながら、成長してゆきます。そんなエルヴィスがコーチのダグ・リーに出会ったのは13歳のときでした。当時のダグはすでに、世界チャンピオンであり五輪のメダリストでもある、B・オーサーを育てた名コーチ。エルヴィスは早速ダグに見込まれ、指導を受けるようになるわけなんですが・・・
  私が興味深いのが、そうなってもエルヴィスは空手を続けていた(ダグは続けることを許した)ということなんですね。もしこれが日本だったら、「無駄な筋肉がつくから止めろ」とか、「そんな暇があったらスケートの練習をしろ」とかいわれそうじゃないですか?
 空手のほかにも、エルヴィスは、ダートバイクで林道を走ったり、モトクロスをやったり、男っぽい趣味全開してゆきます。彼が、空手の黒帯を取ったのは16歳のときでした。
 もちろんフィギュアスケートにも熱中します。ジュニアのころから、彼のジャンプは高い評価を受けていましたが、
「ジャンプし、回転する機械」
などとも揶揄されていました。しかしダグは、
「これからの彼の経験が必ずや彼の芸術性を高めてゆくはずだ」
と述べています。
 そしてエルヴィスは順調に成長し、18歳('90年)4回転ジャンプを飛び、19歳('91年)に4-2のコンビネーションを完成させます。おそらく、このころの、エルヴィスのコメントが残っています。

<記事のURL紛失してしまってすみません>
***
 がっしりとした5フィート7インチの体躯、波打った黒い髪と東欧的な彫りの深い顔立ち、黒い眼・・ストイコは、スポーツに対して、ほとんどありえないような、不可解な見解を持っている。
「私(エルヴィス)は、スケートに、真のスポーツであってほしいのです。武術はスポーツであり、芸術との複合体です。私は、スケートにも同じことであってほしいのです。」
***
(「トロント・サン」より)
(1991年、エルヴィス19歳のときの発言。ちなみに彼が空手の黒帯を取ったのは16歳のとき) 

 この文章からすると、そうでもないかもしれませんが、この記者さん、エルヴィスのコメントにずいぶんと懐疑的です。ま、無理もないです。これを述べているのが19歳のガキです(ごめん、エルヴィス)
 わけのわからん理屈を持ち出して、若造が何言ってやがる、ぐらいにしか思っていなかったかもしれません。

 しかし、上に書いたことでもわかるとおり、エルヴィスにとって、空手(すなわち東洋武術)と、フィギュアスケートは、同じくらい近しいものでした。けして、付け焼刃や思いつきの発言ではなかったのです。おそらく彼は、ダグにも、これを口癖のようにいっていたことでしょう。
  そしてダグは、それをいかに実現させるかを考えていたに違いありません。下手をすれば、単なる際物で終わってしまう。そうさせることなく、エルヴィスのいうような、武術の持つ“美"そして“芸術性”を氷上で表現するにはどうすればよいのか。
 「技術のみのスケート」「マシーン」等と揶揄されていたエルヴィスが、こんなにも若いころから、“芸術とスポーツ、そして武術”について考えていた、ということは、ある意味、とても皮肉なことかもしれません。
 
いくら高い技術を持っていても、それだけでは上に上がれないのがフィギュアスケートです。採点競技である以上、ジャッジに技術点、芸術点共に高い点をつけてもらわなければトップには立てない。
 そして、当時はまだ、芸術といえば西洋のもの、ギリシア・ローマ以来の“美"、そして、バレエをはじめとする西洋舞踏の“美”が高く評価されていましたから、エルヴィスは悩んだ時期もあったろうと思います。

 自分の体格、体型。背が低く、骨太で、筋肉質で、頭が大きく手足が短い。太ったら、やせれば・・なんてもんじゃない。これは自分ではどうしようもないものばかりです。
 まして、おなじコーチに、B・オーサーが師事していて、すぐ身近にいた。手足が長く、顔が小さく・・スタイルは申し分なく、氷上で映えるオーサーが・・・

 しんどい時期を過ごしたんじゃなかろうか・・と思います。実際、「バレエは僕には向かない」というコメントも残しています。

 しかし、これが逆にエルヴィスに、自分を見つめる機会を与えてくれたのかもしれない。自分の技術が、自分の肉体が、自分の知識が、何をどう表現でき、また、できないのか。

 彼はとことん、それを見つめたんじゃないでしょうか。そして、行き着いたのが、幼い頃からやっている、空手だった。
武術を、いかにして西洋人も認める芸術へと昇華させるか。それが、次なる彼の課題となったわけです。
 
 エルヴィスの幸運は、そこにダグがいたことでした。ダグは、エルヴィスの考えを理解し、その実現の方法論をしっかりと叩き込んだ。
 単なる際物として終わらないよう、芯のしっかりとした芸術として成り立つよう、氷の上で、いかに滑るか、曲がるか、止まるかといった、まず、基本から、基礎から、がっちり教え込んだのではないかと思います。
 いかなる個性も、しっかりした基礎の上にこそ、花咲くものだということを、ダグは信念として持っていたのではないかと思います。
 本田武史がダグに師事するようになってから、見違えるように滑りが変わったのが、私には忘れられません。

そんな、エルヴィスとダグが、リレハンメルオリンピックに向けて完成させたのが、このプログラムでした。
「ドラゴンーブルース・リー・ストーリー」
エルヴィス自身が尊敬している、というブルース・リーと、自分の中に培ってきた空手の技とを複合させて、まさに“氷上の演武”という仕上がりになっていました。
 いまでこそ、エルヴィスといえば、ドラゴン、といわれるくらい、彼のトレードマークともなり、評価も高いプログラムですが、発表当時は、ジャッジから、ものすごい拒否反応を示されたのでした。
「武術は芸術ではない」「氷上でカンフーやってる」
それが理由でした。

しかし彼は周りの雑音も聞かず、リレハンメル五輪の出場権を勝ち取ります。
五輪での演技 3Aが抜けたのが残念。


翌日の「トロント・サン」にはこんな記事が載りました。

+++++++
<ジャッジによるストイコへの芸術点での冷遇―勝利に値する銀>

 ジャッジたちが、ブルース・リーよりもチャイコフスキーを好むので、ストイコは昨晩、金メダルの代わりに銀メダルを得た。
 ストイコの長年の天敵であった“芸術点”は、今度は彼のオリンピックフィギュアスケート男子シングルのタイトルを奪い、さらに悩みを深くするために戻ってきた。
 いつもどおり、ストイコはフリーで最高の技術点をたたき出したのだが、ジャッジたちの好みに合ったのは、古典的な演技をする若いロシア人スケーター、アレクセイ・ウルマノフであり、勝利を収めたのも彼であった。

 ストイコは武術と、彼の尊敬するブルース・リーをテーマにフリープログラムを構成した。そして、技術点は9人のジャッジのうち7人が5.9を、2人が5.8をつけた。しかし、芸術点は割れた。ロシアのジャッジの5.5から、5,7と5.8まで。
 
 世界クラスのスケーターであるとともに、ストイコは空手の黒帯でもある。彼の持論は、
「武術は、メンタルで、スピリチュアルな部分が身体的なもの以上です。それは、ひとつの芸術様式であり、スポーツです。その意味では、フィギュアスケートも同じです。この二つは、融合されうるのです」
 であったが、明らかに、ジャッジはそれを否定した。

 ショートプログラムでも、ストイコはウルマノフの芸術点に引けを取らない技術点をあげていたのに対し、カナダ人以外の8人のジャッジが評価したのはウルマノフの方だった。内心失望したストイコであったが、彼はかたくなに自身のパフォーマンスの芸術的側面を守り抜いた。
 そして、ジャッジたちがいかに新しいテーマ(たとえば武術などの)に関して閉鎖的であるかを大衆に示したのだ。

  ストイコのプログラムが、オリンピック会場の満員の観衆によって熱狂的に受け止められたのに対し、ウルマノフのパフォーマンスは、礼儀正しい拍手のみで終わった。
 ダグ・リー(ストイコのコーチ)は、この時が、ジャッジたちが、彼らが彼らが至上のものとする以外の芸術的なスタイルに目を向け始めたときだという。

 「向こうには、また違った味があるのです。」と、ダグは言い、悔しさをかみ殺した。
 「本が、いくつもの章から成り立っているように。私は武術の芸術的価値を見ることができます。そして、他の誰かはそれを見ることができないのだとしたら、不運なことです。」

 フランスの、フィリップ・キャンデロロも、彼自身の斬新なスタイル、演技プログラムのために不利にされているように思われた。かれは、映画「ゴッドファーザー」のテーマで滑ったのだが、銅メダルに終わった。

+++++++

 しかし、この記事の書かれた約一月後に、エルヴィスは幕張の世界選手権で、4-3のコンビネーションジャンプを試み、技術点で6点満点を出し優勝するのですが、その際、6.0をマークしたジャッジは芸術点では1人だけ一番低い、5.7をつけていました。

幕張ワールドでの演技(インタ付き)

 
 あれはいまだに
「お前の技術は申し分ない。しかし,我々はお前の演技が芸術であると認めることはできない」
 というジャッジのこだわりを持ったメッセージだったのでしょう。
 キス&クライ席で、それまで満面の笑みをたたえてエルヴィスと喜びを分かち合っていたダグの表情が、芸術点が出たとたん一瞬曇ったように見えたのは、たぶんこれを察したからだと思います。
"見えざる敵”の意志は、予想通り堅い、と改めて噛締めていたのかもしれません。

そして彼はくじけることなく、長野五輪では和太鼓をフィーチャーした鼓童の「ライオン」をプログラムに持ってきます。
長野五輪


そして、彼のラスト五輪となったソルトレイク五輪で演じられたのも、この「ライオン」と「ドラゴン」でした。

ソルトレイク五輪SP


ソルトレイク五輪FS


現役生活に別れを告げる五輪で、一番自分の思い入れのあるプログラムを演じていった彼。

そして、このような東洋テイストのプログラムはまるで彼の残した遺産でもあるかのように、多くの選手に演じられるようになってゆきます。
このシーズンにも中国のチェンジャン・リーが東洋武術をテーマにしたプロを演じていました。

チェンジャン・リー 2001年 ネイションズ・カップ(本当は五輪の方が印象的だったのですが残っていない・・)


そして、こういった東洋テイストの演技はジャッジよりもむしろ選手たちに受け入れられ、後にも多くのプログラムが作られます。

ペーター・リーベルス  (アジア音楽コレクション) 衣装の胸の「太極」の文字が有名になりました。確かNHK杯に来てたと思うのですがその動画が見つからない。
2008年 フィンランディア杯


ミハル・ブレジナ (鼓童) これはカメレンゴ先生の振り付け。2年継続しました。
2012年 世界選手権


山田耕新 (るろうに剣心) これの全日本バージョンがTVで放映されなかったのは本当に残念でした。彼は雑誌のインタで放送されなくて残念でしたね、と振られ
「剣心は明治になっていづこともなく姿を消してしまう。だから、僕のあのプログラムもそれでいいんですよ」というようなことを言っていましたが・・・
2013年 西日本選手権



羽生さんの「SEIMEI」がどのような評価を受けるのかとても楽しみですが、彼がこのプログラムに挑戦できた裏には、こういったフィギュアスケートの芸術面の幅を広げてくれていた先人たちがいた、ということをファンの方にも知って欲しく思います。
 


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テーマ : フィギュアスケート
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No title

こんにちは
初めてコメントいたします
ストイコさんってライーヨーの人だったんですね・・・!
幼いころ五輪のテレビを見ていて「この人日本が好きなんだな」「この太鼓の曲かっこいい」と思ったものでした
最近スケートを深く見るようになり、
こうして15年ぶりにまたあのプログラムに再会でき、ストイコさんの経歴も知ることができて嬉しく思います
貴重な記事と動画のご紹介ありがとうございました!

No title

記事を読んでから動画を観たら泣けてきました(T_T)
当時は、男子フィギュアって王子様がいっぱいいるなぁくらいの感覚で観ていて、ストイコさんは体型で損をしてるな、ぐらいにしか思っていませんでした。
今、あらためて演技を見ると、SEIMEIの余韻がふっ飛んでしまいました(^_^;)
そこから90年代の動画巡りをしてしまったのですが、今見てもすごいというか、最近見る試合より面白くて熱いように感じます。
技術は高難度になってきているけれど、ルールの縛りが芸術性の面に悪影響を及ぼしていることはないのかななんておもったりします。

懐かしい演技、素晴らしい演技を観ることに繋いでくださり、ありがとうございます^^



No title

初めてコメント致します。m(_ _)m
エルヴィス・ストイコ、素敵ですね。
ご紹介の動画ではソルトレイク五輪での演技が1番好きです。
昔は今ほどちゃんと見ていなかったので、勉強になりました。
東洋風のプログラムのパイオニアなんですね。
プログラムのジャンルの幅を拡げるって、芸術的です。
しかも、ありがちなナンチャッテ感が全くと言っていいほど無いのも、凄い。
芸術性を批判の理由に利用する、非芸術的な風潮は今だにありますが、
もっと壁が厚かった時代に信念を貫いて、しかも結果を残した。立派ですね。

リレハンメルの表彰台は予想外の顔ぶれだった

興味深く拝読しました。
ストイコは、フィギュアのルールに意見を言っても、審判の判断に疑問を言ったことはないと思います。
男子フィギュアも五輪競技なら、より早く高く強くに挑戦して当たり前、と前から言っており、パトリック・チャン選手がプログラム構成維持なので、羽生選手の挑戦を応援してくれるのでしょう。

ご紹介のトロント・サンの記事の原文が分かりませんが、地方スポーツ紙ですしね…。
ドラゴンは、カート・ブラウニングのカサブランカと比べられて、カナダ国内でもビミョーな評価でした。
それが優勝候補の自爆大会になったリレハンメルで銀を取ったことで、カナダでは金だったはず、ヨーロッパではキャンデロロがストイコを逆転して銀だったはず、と舌戦になったようです。

ストイコが近所で空手を習い始めたのは10才、フィギュア男子がいじめられることに気付いた父親が勧めてのことで、16才でカンフーの師に出会い、稽古で集中力が増してジャンプが安定した、と経歴やインタビュー記事にあります。
体が硬くカートほど多彩な技が無いことが、武術を取り入れることから考えての独自のスタイル確立につながりました。

リレハンメル後、ストイコのクワド入りマッチョ・プロは時代に合い、トッド・エルドリッジのクワド無し端正プロより点を稼いで、長野では優勝候補でした。
ケガが残念でした。

実はクワドキングと呼ばれながら五輪で跳んでないので、ロシア男子頂上対決のソルトレイクでは、ストイコの課題は30才目前でクワドのコンビネーションに成功することでした。
五輪でクワドを入れたかったプログラムで跳んで、減点はあったけど、ストイコ自身は満足だったようです。
ストイコの武術プロは2つだけ、武術関係者に応援される完成度で代表作になりましたが、型を尊重して取り入れるのは難しいので、新ジャンルになったのかどうか。
羽生選手は、野村萬斎さんが好意的で、ほんとーに良かったです。


プロフィール

Dora Quadski

Author:Dora Quadski
確かにフィギュアはジャンプだけじゃないですが・・・でも、やっぱりジャンパー・タイプのスケーターが好きです。
最近応援しているのは、ロシアのセルゲイ・ヴォロノフと、2009年に国別で来日した際に惚れ込んだコンスタンチン・メンショフです。
日本では小塚崇彦君、町田樹君を絶賛応援中!
 
他に、 『スター・トレック』(特にTOS 、TNG)も大好きです。
中でも、P・スチュワート扮するピカード艦長の大ファンです。もちろん、P・スチュワート自身も!
ただ、性格的にはヴァルカンに憧れるクリンゴンって感じかな(笑)ウォーフとサレックに惚れてますw。

そうです、わたしはトレッキー&シャーロッキアンなのです(笑)

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